有名作品を巡って 歌詞欄(Lyrics)とあるバス停でバス待っている間。大好評書籍化されたクリスタル亜城(あしろ)を読んでいる。前の方から、大きな怒号が聞こえる。 「だから!クリスタ粗塩(あらじお)だよ!」 バス待ちのおっさんが電話で話をしている。 「買ってきてくれ!クリスタ粗塩!読みてぇんだ! 亜城!?なんだそれ!?」 電話の相手に声を荒げて説明している。恐らくクリスタル亜城を電話の相手に買ってきてほしいのだろう。 「粗塩?だろ?亜城?知らねぇ!訳わからんこと言うな!」 (あんたが訳わからんわ……。) そう思った。 「粗塩だ!亜城?知らねぇって!そんなもの亜城言ってたら恥かくだろ!」 (もう恥かいてるよあんた……。) 今持ってるから見せようとしたが、お節介だと思ってやめた。 「もういいよ!粗塩!粗塩って言ってんだろ!」 相変わらず怒って突っぱねた。 「おう!粗塩だ!賭けてやろうか!?「何賭ける?」って!?」 仕舞いには賭けに発展し出した。そうしている内にバスがゆっくりと近づいてきた。 「もうバス来たから!降りたらまた電話するから!」 (あ〜あ、間違えているな……。) 呆れて、クリスタル亜城を鞄に入れてバスに乗り込んだ。 車内はほぼ満席で、入口付近通路側の2席しか空いていない。俺は左の通路側席へ、おっさんは右側の席へ座った。そして、おっさんに聞こえるぐらいの声で呟いた。 「あれ?クリスタ粗塩どこいった?あぁ、あったあった。」 クリスタル亜城を鞄から出して続きを読みだした。 すると、その様子を見ていたおっさんが勝利を確信したかのように悪どい笑みを浮かべた。車中、所々で独り言を呟く。 「やっぱりクリスタ粗塩いいな〜。」 おっさんはチラチラとこちらを見ている。 バスが終点に着き、乗客が慌ただしく降りていく。 俺もおっさんもその流れに身を任せ降りていった。 バスから降りたおっさんがすぐさま電話を取り出して掛けた。 「おう!俺な!粗塩に50万掛けてやるからな!」 自信満々にそう言い放ちながらバス停を後にした。 (あのおっさん……50万払うの確定だ……。) めでたしめでたし。 |