60センチの小宇宙 歌詞欄(Lyrics)ひとつの傘に 肩を寄せた夜 街路樹を洗う匂いが 深呼吸を誘う 言葉は要らない 息づかいだけで 掌の温度が ゆるやかに重なる 濡れた袖先が そっと触れ合えば 遠くのクラクションさえ 霞んでゆく 60センチの沈黙 雨粒が 世界を区切る ほんの狭い空間(そら)でも 心は どこまでも近づく 揺れる雫のリズムに 耳を澄ませて 路地裏のあかり 水面に揺れて 踏み出すたび ふたりの影が重なる 「寒くない?」と 低く呟けば 小さく返る声が 夜をあたためる 雨脚が弱まり 街が輪郭を取り戻す それでも 歩幅はそろえたまま 60センチの温もり 遠ざかるノイズを 息で溶かし そっと重ねた指先で 確かめる あわいひだまり 小さな鼓動が 傘の内側で揺れる 雲が切れてしまえば 傘は閉じられ 距離は また測り直しになる だからもう少し 歩みを止めて この雨の余韻を 掌に閉じこめよう 60センチの高鳴り 夜更けの匂いが わずかに変わっても 胸の鼓動だけが はっきり近づく 雨音が途切れる瞬間に 交わす視線が 光を孕んで 今この距離が 小さく跳ね上がる |